徳島大学病院脳神経外科では年間60~80例の脳腫瘍手術を行っています。 神経膠腫(グリオーマ)、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍などが主な治療対象ですが、 近年、手術件数・入院件数とも増加しています。脳腫瘍手術支援システムとして、 最新型手術顕微鏡、ナビゲーションシステム、超音波メスなど最先端の手術器具を導入し、 最先端のレベルの高い手術を行っています。 また、当院の放射線科や小児科と協力して小児悪性脳腫瘍に対して放射線・化学治療を集学的に行い良好な治療成績を得ています。
過去5年間の脳腫瘍の手術症例数
2015年 86 例
2016年 75 例
2017年 76 例
2018年 89 例
2019年 91 例
2020年 75 例
1.頭蓋底腫瘍
頭蓋底手術とは、脳を愛護的に扱い、できるだけ脳実質の損傷を避けるために、頭蓋底部の骨を削除して行う手術です。 以前では到達困難であった深部に位置する脳腫瘍や、従来の方法では脳実質の損傷が避けられなかった腫瘍に対して行っています。 この手術を行うには、まず必要なのが熟練した手術技術と手術支援システムです。 徳島大学脳神経外科では、ナビゲーションシステム、術中神経モニターリングを用いて年間10例程度の頭蓋底部腫瘍(髄膜腫、神経鞘腫など)を行っていますが、その治療成績は非常に優れており、 世界の標準レベルに達しています。
左 手術前(錐体斜台部髄膜腫)
右 手術後
2.グリオーマ手術
近 年、神経膠腫(グリオーマ)に対する手術は大きく変わりました。 以前は、手術の摘出度と随伴する神経症状の予防は、執刀医の経験と勘に依存するところが大でした。 当施設では、グリオーマ手術での随伴する神経症状の予防のために、覚醒下手術(手術中に患者を覚醒させて、 神経症状の出現の有無を確認する)や電気生理マッピング(脳表を刺激して運動量野やその詳細な局在を確認する)を導入しています。 また、摘出度を高めるために、最新型のナビゲーションシステムや超音波装置を導入しています。 これらにより安全で確実性の高い手術を行っています。また、今秋より、悪性グリオーマ治療に光線力学療法の導入も予定しております。
左 手術前 (悪性グリオーマ)
右 手術後
ナビゲーションシステム
3.下垂体近傍腫瘍
下垂体近傍腫瘍では、下垂体腺腫が最も多く、年間10~15例程度を手術しています。 そのほとんどが開頭手術でなく、鼻の穴から行う経蝶形骨洞的腫瘍摘出を行っています。さらに最近ではハイビジョンカメラを用いた内視鏡システムとナビゲーションシステムを用いて、安全に最大限の腫瘍摘出を行っています。 機能性腺腫(ホルモン産生腺腫)に対しても、内分泌内科と協力して、薬物療法、手術療法を積極的に行っています。
現在まで150例以上の下垂体腺腫の手術を行っていますが、死亡例や重篤な合併症を併発した患者さんはいません。 全員、家庭生活復帰だけでなく社会生活に復帰されて元の仕事を行っています。
4.神経鞘腫
神経鞘腫とは神経を取り巻いて支えている鞘(さや)から発生する腫瘍で、脳神経や脊髄神経から発生します。 一般には良性腫瘍で、手術により完全摘出ができた場合には治癒が期待できます。 発生する脳神経により症状は異なりますが、聴神経から発生する場合が最も多く(70-80%)、 ついで顔面の知覚を行っている三叉(さんさ)神経、顔面の運動を行う顔面神経などから発生します。 聴神経鞘腫の場合、聴力の低下で発症します。突発性難聴のような突然に発症する場合もありますが ほとんどは数年の経過で進行します。
特徴は電話声が聞こえるが何を言っているのか判らない (=言語識別力の低下)です。腫瘍の増大につれて近接した三叉神経障害から顔面の感覚障害、 顔面神経障害から顔面神経麻痺(顔面の表情筋の一側のたるみ)がしばしば伴います。 また更に大きくなり小脳や脳幹を圧迫することで、ふらふらして歩行ができなくなったり、 水頭症から頭蓋内圧亢進症状をきたして生命を脅かすこともあります。
神経鞘腫は基本的には良性腫瘍ですので外科的摘出が第1選択になります。聴神経鞘腫の場合、腫瘍の周囲は顔面神経や脳幹・小脳に接しているために手術難易度の高いものの一つです。 開頭術で腫瘍摘出を行います。手術前に中等度以上の聴力障害(自分で難聴を自覚している場合)がある場合には、 手術を行っても聴力の回復はまず困難です。一番の問題は顔面神経の温存です。この顔面神経は通常、 腫瘍により顕微鏡下でも肉眼で見えないぐらいに圧迫され広がっているためにこれを温存することに最大限の努力を 払います。3cm以上の大きな腫瘍では程度の差はありますが顔面神経の障害が出現する可能性もあります。
左 手術前 (聴神経腫瘍)
右 手術後
5.髄膜腫
髄膜腫は良性脳腫瘍の代表例です。原発性脳腫瘍の中で26%程度を占めています。これは「髄膜」から発生してくる腫瘍です。髄膜は脳実質を覆っている膜の総称です。したがって髄膜がある部位ではどこでも発生してきます。
症状は、初期は脳神経の圧迫症状や痙攣で、大きくなった場合は頭蓋内圧亢進症状を呈することもあります。 最近では、CTやMRIが普及したこともあり無症状の髄膜腫が発見されることも多くなっています。
無症状で、小さな髄膜腫は手術せずに経過観察しますが、症状を呈している場合は治療の必要性があります。 基本的には全摘出で治癒が期待できます。
徳島大学脳神経外科では、症状を呈している髄膜腫には積極的に手術を行っています。高齢者でも、腫瘍摘出により症状の改善が見込めれば、血管内治療チームによる術前の腫瘍栄養血管塞栓を行い、出血量をコントロールできるために、術後成績も良好です。
左 手術前 (髄膜腫)高齢者症例
右 手術後
「臨床医は多くの患者を救えるが、研究をするものはその結果次第で、その何千倍もの患者を救える可能性がある」(徳島大学脳神経外科 永廣信治 前教授のことば)
私たちは動物実験の倫理を遵守し、基礎研究を行っております。内容は多岐にわたりますが、以下代表的なものを示します。
1. Dystoniaモデルマウスの研究
ジストニアの原因として小脳が注目されています。ジストニアモデルマウスを作成し、その病態を研究しております。
2. Huntington病モデルマウスの研究
Q175ハンチントン病モデルマウスの免疫組織学的研究を行っております。機械学習を用いた線条体ストリオソームコンパートメントの同定や、機能異常の研究しております。マサチューセッツ工科大学 McGovern Institute of Brain Research, Graybiel研究室との共同研究です。
3. 6-OHDA片側パーキンソン病モデルマウスを用いたl-dopa誘発性ジスキネジアの研究
パーキンソン病モデルマウスを作成し、その機能的異常の研究を行っております。徳島大学薬学部神経病態薬理学講座 笠原研究室との共同研究です。
4. アデノウィルス (AAV)ベクターを用いた神経トレーシング研究およびオプトジェネティクスまたは脳深部刺激による機能解析研究
ストリオソームに関連する神経トレーシング、オプトジェネティクス研究等を行っております。マサチューセッツ工科大学McGovern Institute of Brain Research, Graybiel研究室、福島県立医科大学 生体機能研究部門 加藤先生との共同研究です。
1.徳島大学工学部知能情報学科 獅々堀研究室と、データベースを用いた機械学習研究やデータマイニングの研究を行っています。
2.ウェアラブルデバイスを用いた研究、脳深部刺激療法に関連した研究を行っています(一部、アメリカピッツバーグ大学との共同研究)。
3.フィールドスタディも行っております(フィリピンの研究者との共同研究)。
4.MRIやPETを用いたジストニア、パーキンソン病、振戦患者の画像研究(徳島大学放射線科、リハビリテーション科の研究者と共同研究)。
徳島大学脳神経外科
Department of Neurosurgery,
Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences
〒770-8503 徳島県徳島市蔵本町3-18-15