MIT留学体験記

森垣 龍馬   

 マサチューセッツ州は4月から11月くらいは本当に気候もよく過ごしやすいですが、冬の寒さは非常に厳しいです。私は12月に現地入りしましたが、その年初めての寒波直後でした。冬の間は良い季節がくるのをじっと耐えるような感覚でした。ケンブリッジーボストン界隈は日本の食べ物も比較的簡単に手に入り、治安も良く、人種の多様性にも寛容で非常に住みやすいため、永住している日本人の方々も数多くおられます。この地域には100を越える大学があり、特にMITとハーバード大学は世界大学ランキングで常にトップ5に入る素晴らしい大学です。MITはケンブリッジにありますが、東京ドーム13個分の非常に広大な土地を占めており、周辺にさらにサテライト施設が点在します。MIT81名のノーベル賞受賞者を輩出しており、日本人ノーベル生理学賞受賞者である利根川進教授のラボは同じ敷地内ですぐ近くにあります。他に製薬会社や実験試薬の研究所も多数存在し、朝注文すればその日のうちに試薬が届くこともあります。マクガヴァン脳研究所は、学習記憶研究所、自閉症脳研究所などとの複合施設で、いずれも富豪の寄付により建てられたセンターで、アメリカはもとより世界各国からの多くの研究者、学生がひしめき合っています。研究を始める前に膨大な量のe-learningや対面講義を受ける必要があるのですが、一旦研究が始まると非常に研究しやすい環境が整えられています。最上階が動物舎で、エレベーターを使って動物を各階へ降ろし、そこで手術したり行動試験をしたりします。冬になると毎日のように一流の研究者の講演会が開かれ、多くの人が聴講に来ます。最初のうちは特に英語の勉強のため、毎日聴講に行きました。学生の実験への参加も活発で、皆次の大学院や企業へ行くステップアップのために研究をします。MITの学生のみならず、長期休暇中の高校生も大学入学へ有利になるために有名な研究室に来ます。私も一人の高校生を夏休み期間中お世話しました。

 

MITでの研究

     Graybiel教授はMITの終身教授でニューロサイエンスの世界では最も高名な人物の一人です。6年ほど前に神戸で一度お会いしたことがあり、人格者であることは存じていたのですが、渡米前はそのようなところで自分がやっていけるのか不安でした。私はGraybiel教授が発見した線条体のストリオソームーマトリックスという微小構造の特にパーキンソン病、ジストニアといった運動異常症との関連について研究してきました。しかし、彼女たちは精神疾患や報酬系との関連について主に興味があり、私の興味とは若干のずれがありました。私に与えられた期間は1年とあまりにも短く、最初からあまり期待されていないのは明らかでした。そして私は客員研究員という立場であり、何をするかは当然自分で見つけなければなりませんでした。そこで私はラボで飼われていたハンチントン病モデルマウス(HDマウス)に着目しました。私は渡米前にハンチントン病のレビュー論文を書いていたので、目をつけていた分子があったのです。もう使えない高齢のHDマウスを譲り受け、抗体などは自分のグラントで買い、黙々と実験を続け様々な異常を発見しました。初めてGraybiel教授に結果の一部をお見せした時、”This is interesting!!”と興奮して褒められたのは忘れられない思い出です。実験を始めて3か月でラボ内で最初の発表機会があり、そこで初めてラボに少し受け入れられた気がしました。それからも重要な異常を次々に発見することができ、1年の予定を少しでも長くしてくれないかと頼まれるようになりました。そして高木教授のご厚意もあり、3か月の延長が決まりました。Graybiel教授も私がすることや推論に全面的に賛同してくれて、ハンチントン病財団からの助成に私を含めてくれました。ラボのメンバーも様々な面で強力にサポートしてくれるようになりました。